<社説>あすから統一地方選 自治の力が地域変える(東京新聞 2023年3月22日 06時50分)
北海道、神奈川、福井、大阪など九道府県の知事選があす告示され、四年に一度の統一地方選が始まる。国政選挙と比べて有権者の関心の低さは否めないが、地方自治の担い手を選ぶことは身近な暮らしの問題を決める重要な機会でもある。地域を再生し、未来を選ぶために貴重な票を投じたい。
統一選の前半は知事選に続き、政令市長選、道府県議選・政令市議選が順に告示され、いずれも四月九日に投票される。後半は東京の区長選・区議選、一般市長選・市議選、町村長選・町村議選があり、投票日は同二十三日。
地方自治体が直面する最大の問題は人口減少だ。人口流出や少子化に歯止めがかからなければ産業は衰退し、地域の公的サービス維持も難しくなる。国の少子化対策の効果が乏しい中、自治体が独自に子どもを産み育てやすい環境づくりに成果を上げた例もある。
◆多世代で子育て支える
その一つが岡山県奈義町。県北東部の山あいに位置し、人口は五千七百人余り。一九五五年には九千人に近かった人口は過疎化で減り続け、女性一人が生涯に産む子どもの推計数(合計特殊出生率)は二〇〇五年の時点で一・四一にまで落ち込んだ。
ところが、町を挙げた子育て支援の結果、近年の合計特殊出生率は二を超えるまでに回復した。小さな町のため年によって数値にばらつきはあるものの、一四年には二・八一、一九年は二・九五に達した。全国トップ級の水準で、人口減少も緩やかになった。
町の支援策に「特効薬」があったわけではない。二十年かけて不妊治療助成、出産祝い金、高校生まで医療費無料化、年十三万五千円の高校生への就学支援、月一万五千円の在宅育児支援などを打ち出し、段階的に拡充していった。
子育て支援は行政による経済支援にとどまらない。子どもの一時預かりや子育て相談の拠点「なぎチャイルドホーム」の運営には高齢者ら住民も参加する。育児の合間にできる仕事を紹介する「しごとコンビニ」も開設し、利用者は年々増えている。
町情報企画課の担当者は「経済支援はどの自治体もできる。奈義町の本当の強みは地域ぐるみ、多世代で子育てする精神的サポートです」と話す。子育て中の女性からは「地域の皆さんに支えられて安心して楽しく子育てできる」という声が聞こえてくる。
町の取り組みの原点は、〇二年の住民投票で圧倒的多数の町民が他市町村と合併しないと選択したことだった。小さな町を単独で存続させるために議員定数の削減をはじめとする行財政改革を行い、子育て支援に一億円以上の財源を捻出した。地方自治が二十年かけて町を変えたとも言える。
「奇跡の町」と呼ばれるようになった奈義町には全国の自治体や議会から視察が相次ぐ。「異次元の少子化対策」を唱える岸田文雄首相も二月に訪れた。国が進めた「平成の大合併」に応じなかった町を二十年後に「先進自治体」と認めたことになる。
◆民主主義強くするため
ただ、地方自治は今、多くの難問に直面している。
まずは地方議員のなり手不足。前回一九年の統一地方選で無投票当選者の割合は道府県議選で26・9%、町村議選で23・3%と過去最高だった。多くの候補者からより適任の議員を選べなければ、自治の力はそがれかねない。
加えて、女性議員の少なさがある。共同通信の調査では都道府県と市区町村の議会で、女性がゼロまたは一人の「ゼロワン議会」は二二年十一月時点で38・8%。多様な人材が参加する議会でなければ、多様性を認める包摂的な地域づくりは難しい。
こうした背景には小規模自治体の議員報酬の低さのほか、会社員や女性の立候補の難しさが指摘される。国は地方議員の兼務規制を緩和するなど議員のなり手確保に乗り出したが、効果には限界もあり、自治体の主体的な取り組みや社会全体の理解が不可欠だ。
何より深刻なのは投票率の低下だ。四年前の前回統一地方選では知事選、道府県議選、市区町村長選、市区町村議選の全体の投票率はいずれも50%を割り込んだ。
英国の政治家・ブライスは「地方自治は民主政治の最良の学校」との至言を残した。自分が住む自治体のことは人任せにせず、住民自身が決める。そして自治の力の源泉は有権者の投票にある。
そうした自覚を持つことが民主主義を強くする。統一地方選を機にあらためて胸に刻みたい。