「安倍官邸の圧力」鮮明 野党、解釈撤回求め攻勢―放送法文書、岸田政権「過去の話」(JIJI.COM 2023年03月09日07時06分)
放送法の政治的公平性を巡る総務省文書は、安倍政権時代の首相官邸が解釈見直しを求めて圧力を強めていった経過を鮮明に浮かび上がらせた。野党は8日、攻勢を本格化。岸田政権は「過去の話」として打撃を回避しようとしている。
◇改憲「反対ばかりは困る」
「放送法の私物化。(新たな)解釈は撤回すべきだ」。立憲民主党の小西洋之氏は8日の参院予算委員会で追及を強めた。松野博一官房長官は「精査中」とかわした。
問題となったのは番組編集の政治的公平性を政府がどう判断するかだ。総務省は長年「一つの番組ではなく番組全体を見て判断する」と解釈してきた。2015年5月、総務相だった高市早苗経済安全保障担当相が国会答弁で「一つの番組のみでも極端な場合は公平性を確保しているとは認められない」との解釈を加えた。
文書によると、背景にあったのが安倍官邸の意向。14年11月、礒崎陽輔首相補佐官(当時、以下同)が総務省に「一つの番組でもおかしい場合があるのではないか」と解釈見直しを指示した。
同省が難色を示すと、礒崎氏は「抵抗しても何のためにもならない」と発言。安倍政権が目指した憲法改正に触れ「賛成、反対ばかりの放送でも困る」と主張した。
◇言論弾圧
総務省は15年2月、高市総務相に状況を報告。高市氏は「官邸には『準備をしておきます』と伝えてください」と語ったという。
当時、集団的自衛権を限定容認する安全保障関連法制を巡り世論の賛否が割れていた。総務省出身の山田真貴子首相秘書官は、解釈追加に「安保法制を議論する前に民放にジャブを入れる趣旨だろうが、視野の狭い話。言論弾圧ではないか」と懸念を示した。「礒崎氏は官邸内で影響力はない」と慎重な対応を求めたとされる。
総務省の局長が菅義偉官房長官に話を通すよう礒崎氏に促すと、同氏は「局長ごときが言う話ではない。俺と総理が2人で決める話」「首が飛ぶぞ」と憤った。
安倍晋三首相が報告を受けたのは3月。山田氏らが「官邸と報道機関の関係に影響が及ぶ」と主張したのに対し、礒崎氏は「(TBSの)サンデーモーニングはおかしい」と反論。安倍氏は「番組にはおかしいものもあり、現状は正すべき」と判断したという。
高市氏は15年5月、官邸と総務省の調整を踏まえた新解釈を国会で答弁したのに続き、16年2月には違反を繰り返した場合、電波停止を命じる可能性に言及した。
◇捏造
今国会の焦点に浮上した総務省文書だが、岸田政権は「内容が事実かどうか分からない」との論法で乗り切る構え。高市氏は8日の参院予算委で、少なくとも自身が登場する文書は「捏造だ」と明言。首相周辺は「安倍政権の話だ」と語った。
だが、「一つの番組を理由に停波できる解釈」(立民関係者)は現政権も継承する。立民の安住淳国対委員長は8日の党会合で、「報道の自由に関わる重大な問題だ」と徹底追及する方針を表明。この後、日本維新の会の遠藤敬国対委員長と会い、高市氏ら当時の関係者に説明責任を果たすよう求めていくことを確認した。