日本の住宅「最高等級の窓」でも「海外では最低基準」という衝撃の事実

日本の住宅「最高等級の窓」でも「海外では最低基準」という衝撃の事実 科学・技術

日本の住宅「最高等級の窓」でも「海外では最低基準」という衝撃の事実(幻冬舎 GOLD ONLINE 2022.11.22)

高橋 彰
住まいるサポート株式会社 代表取締役
一般社団法人日本エネルギーパス協会 広報室長

知られざる「日本の住宅とその性能」について焦点をあてる本連載。今回のテーマは、日本の住宅に使われている「窓の性能」。驚きの事実をみていきましょう。

なんと、52%もの暖房エネルギーが窓から逃げている!

冬暖かく、夏涼しく、結露が生じない家にするためには、窓の断熱性能がとても大切です。【図表1】のように、冬に暖房した熱エネルギーの内、52%が窓から流出しています。さらに夏に流入してくる熱エネルギーは、なんと74%が窓からになります。しかもこの試算値は、アルミの複層ガラス(ペアガラス)を前提としており、単板ガラス(1枚ガラス)のサッシでは、もっとこの割合が高くなります。

【図表1】

日本の最高等級の窓でも、海外では最低基準以下

そのため、欧米をはじめとして、各国は窓の断熱性能に厳しい基準を定めています。【図表2】のように、たとえばドイツでは窓の断熱性能を示す熱貫流率(値が小さいほど高断熱)の最低基準は1.3〔W/m²・K〕以下、中国や米国も図に示すとおりの基準が定められています。

【図表2】

それに対して、日本では気候区分によって異なりますが、東京・横浜・名古屋・大阪・福岡等の温暖な主要都市が含まれる6地域の基準は4.65〔W/m²・K〕と非常に緩い基準になっています。さらに、【図表3】に示す日本の窓の断熱性能のラベリング制度では、2.33〔W/m²・K〕以下で最高等級の☆4つが取得できます。つまり、日本で最高等級の断熱性能の評価が得られるサッシを欧米や中国に持って行くと、最低基準を満たしておらず、使うことができないのです。

【図表3】

このように、日本で普通に家を建てるということは、他の国では考えられない低性能な家になってしまうということです。住まいづくりを始める際には、まずこの事実を認識した上で、取り組むかどうかで住み替えた後の満足度が大きく変わると思います。

樹脂の約1,400倍も熱を通してしまうアルミサッシ

住宅の窓の断熱性能を重視している欧米等の国々では、【図表4】のように、木製もしくは樹脂サッシが主流を占めています。なぜかというと、アルミの熱伝導率は、木や樹脂の約1,400倍に上るため、アルミサッシでは断熱性能の確保が困難だからです(図表5)。それに対して日本では、いまだにアルミサッシが主流を占めています。このあたりからも、我が国の住宅の断熱性能向上の対応が遅れていることについておわかりいただけるかと思います。

【図表4】
【図表5】

結露は欧州では起きてはならないもの

日本では、断熱性能が不十分なアルミサッシもしくはアルミ樹脂複合サッシが主流を占めているため、一流といわれるハウスメーカーの新築住宅でも結露が生じるのがあたり前です。一方、欧州では、「建築物理学」という学問があり、その中で「結露を引き起こすのは誤った設計であり、人の健康を害する瑕疵である」いう考え方があります。つまり多くの欧州の国々では結露は起きてはならないものなのです。

よく、「結露が生じない家なんて可能なのですか?」と質問を受けますが、断熱・気密性能をきちんと確保すれば、普通の暮らし方をしていれば結露は起きなくなります。

つまり、欧米と日本では、住宅に要求されている断熱・気密性能のレベルがまったく異なるのです。

結露は、居住者の健康と住宅寿命に悪影響を及ぼす⁉

ではなぜ結露は起きてならないのでしょうか?

それには大きく二つの理由があります。一つには、結露が生じると、どうしてもそこにカビが発生し、さらにカビはダニの餌になるため、カビ・ダニの発生がアレルゲンとなり、居住者の健康を害します。これらのアレルゲンが喘息やアトピー等の原因になっていることは多いようです。近畿大学建築学部長の岩前篤教授の調査(図表6)によると、従前の家で症状が出ていたものの、高気密・高断熱住宅に引っ越したのちにこれらの症状が出なくなったということを示す「改善率」は、省エネ基準レベル(普通の分譲住宅・注文住宅レベル)に比べて高いことが明らかにされています。

【図表6】

そしてもう一つ、結露は家の寿命に悪影響を及ぼします。結露には、実は表面結露と内部結露(壁内結露)の二種類があります。表面結露というのは、窓等の居住者の目の届くところで生じる結露です。もうひとつの内部結露(壁内結露)は、名前の通り壁の中で生じ、居住者は普段目にできないところで生じています。この内部結露については、別の回にもう少し詳しく触れようと思いますが、壁の中で起こる結露は、壁の中を湿った環境にしまうため、「腐朽菌」と呼ばれる木材を腐らせる菌の繁殖や、湿った環境を好むシロアリの発生リスクが高まるため、家の躯体性能や耐震性能の劣化につながります。

同じ木造でも、欧米に比べて日本の住宅の寿命が短いことの要因の一つに、結露対策が不十分でないことが挙げられます。

積極的に採用したいドレーキップ窓とFIX窓

家を新築する際の窓の選び方について、知っておくべきことをもう少し掘り下げたいと思います。まず、日本では「引違い戸」が一般的で人気があります。「引違い戸」とは、建具枠と2枚以上の引き戸で構成されたもので、2本以上の溝またはレールの上を水平移動させて開閉させるものです。我々が普通にイメージする左右どちらにでも開閉できる窓のことです。確かに使い勝手が良いと思います。

ところが「引違い戸」は、スライドして開閉する分、どうしても隙間が多く、気密性能の確保が難しくなります(図表7)。高気密・高断熱住宅にするならば、引違い戸の使用は極力避けたいところです。計画時に、窓ごとにそこは引違い窓でなければならないのか、しっかり考えた上でひとつひとつ選択したいものです。

【図表7】

お勧めしたいのは、「FIX窓」というまったく開閉できない窓の積極的な採用です。よく考えると採光ができれば必ずしも開かなくてもいい窓というのは意外と多いものです。「FIX窓」はコストも安く、もちろん気密性能も高いので、性能向上に伴って建築費が上がることに悩んでいるのならば、ぜひお考えください。

そしてもうもう一つお勧めしたいのは、欧州では一般的な「ドレーキップ窓」です。少し耳慣れないかもしれません。それもあり、たとえばYKK APではイメージしやすいように、「ドレーキップ窓」のことを「ツーアクション窓」(図表8)と呼んでいます。これは、内開きと内倒しの2つの機能を、ハンドル操作だけで出来る窓です。内開きにすれば外面の掃除も簡単に行えますし、内倒しにすれば外からはハンドル操作はできないので、外出時でも換気が行え、防犯面も安心です。そして、何よりも窓を閉めて、ハンドルを回せばしっかりと密閉されて、気密がとれます。

【図表8】

関の断熱性能もとても重要

窓と併せて、開口部で性能を意識したいのが、玄関ドアです。日本の今までの家は、玄関ホールが寒い家が多いですよね。これは、玄関扉の断熱性能の低さが大きな要因です。最近は、断熱性能の高い玄関ドアのラインナップがかなり充実してきています。玄関ドアの断熱性能を上げると、リビングと一体的なオープンな間取り等も可能になりますし、ぜひ、意識していただきたいポイントです。

健康・快適で結露のない住まいを実現したいのならば、まず窓や玄関ドア等の開口部の性能にぜひこだわっていただきたいものです。

高橋 彰

住まいるサポート株式会社 代表取締役
一般社団法人日本エネルギーパス協会 広報室長

神奈川県出身。東京大学修士課程(社会人特別選抜 木造建築コース)に在学中。千葉大学工学部建築工学科卒。リクルートビル事業部、UG都市建築、三和総合研究所、日本ERIなどで都市計画コンサルティングや省エネ住宅に関する制度設計等に携わった後、2018年に「結露のない健康・快適な住まいづくり」のサポートを行っている住まいるサポート株式会社を起業。
日本でトップクラスの性能を誇る工務店・ハウスメーカーを厳選して提携し、消費者に無料で紹介する「高性能な住まいの相談室」や、デザインと高性能を両立する設計を行う建築家のマッチングサービス等を提供。
また、横浜市住宅政策課主催のセミナーや毎日新聞社主催のセミナー等、多数のセミナーに登壇、メディアへの出演など、高性能な住まいづくりに関する情報発信に積極的に取り組んでいる。
住まいづくりを考えている方々への情報発信を通して、ひとりでも多くの方が、住宅の性能に関する基礎知識を持ち、他の先進国並みに「結露のない健康・快適な家」を普及させることを目標としている。
主な著書に、「元気で賢い子どもが育つ! 病気にならない家」(クローバー出版)、「人生の質を向上させるデザイン性×高性能の住まい: 建築家と創る高気密・高断熱住宅」(ゴマブックス)など。