(社説)総務相辞任 政権運営の正念場だ…朝日新聞
(社説)総務相辞任 政権運営の正念場だ(朝日新聞 2022年11月21日 5時00分)
社会の分断を深めた安倍元首相の「国葬」の独断。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党との関係解明への及び腰と、後手に回る被害者救済策。そして、わずか1カ月で3人目となる今回の閣僚辞任。
岸田首相の政権運営能力に、かつてない厳しい視線が注がれている。山積する重要課題への結論を迫られる年末に向け、失われた国民の信頼を取り戻せるのか、まさに正念場である。
寺田稔総務相が辞任した。政治資金や選挙活動を所管する大臣でありながら、次から次に「政治とカネ」の問題を指摘され、苦しい弁明に終始してきた。身から出たサビといえる。
地元後援会が提出した19、20年の政治資金収支報告書の会計責任者が、実は故人だった。添付された領収書の筆跡が酷似しており、空欄でもらって寺田氏側が宛名を記入した疑いがある。別の報告書では、貸付金600万円の未記載も判明した。
政治活動の公明・公正を確保するため、資金の流れを透明化し、国民の不断の監視の下に置く。政治資金規正法の目的に背くずさんさには驚くばかりだ。
先週は、昨年の衆院選での公職選挙法違反の疑いも浮上した。寺田氏側が地元市議6人に、ポスター貼りの報酬として2400~9900円を支払ったことが、運動員買収にあたるというものだ。朝日新聞の取材では、受領を拒んだ市議に、寺田氏側が「違法ではない」と言い含めて受け取らせていたことも明らかになっている。
寺田氏は「地元からは『正直に説明して感心した』との声しか聞いていない」などと開き直り、辞任を否定してきたが、ゆうべになって、首相に辞表を提出した。きょうから始まる補正予算案の審議や、教団の被害救済をめぐる与野党協議への悪影響を避けるためだろう。真摯な反省によるのではなく、国会対策が主眼では、国民の不信解消にはつながるまい。
旧統一教会との接点が次々と明るみにでた山際大志郎経済再生相と、死刑執行を軽口に使った葉梨康弘法相を、首相は当初かばった。交代の判断が遅きに失したと、党内からも批判を浴びた。今回は後れをとるまいとしたつもりかもしれないが、3人もの不適格閣僚を任命した首相の責任は重い。
宗教法人の解散命令を請求できる要件の答弁が一夜で変わったり、来年の通常国会を想定していた被害者救済新法の提出を今国会に前倒ししたり、内閣支持率の低下に浮足だったともみえる方針転換が相次いでいる。直面する内外の諸課題に、的確な処方箋を示せるか。その対応を国民は注視している。
河井事件に続く「政治とカネ」 寺田氏に地元・広島からも不満噴出…毎日新聞
河井事件に続く「政治とカネ」 寺田氏に地元・広島からも不満噴出(毎日新聞 2022/11/20 19:30 最終更新 11/20 20:01)
現職閣僚が、また「政治とカネ」の問題で辞任に追い込まれた。政治資金収支報告書の記載などを巡り、岸田文雄首相が更迭した寺田稔総務相。地元・広島は首相のお膝元で、3年前には河井克行元法相夫妻の選挙違反事件も起きた。「がっかりだ」。相次ぐ不祥事に、有権者や地元議員からは不満の声が噴出した。
20日朝、広島県呉市にある寺田氏の自宅兼事務所には、支援者や警察の警護担当者らが続々と集まった。午前11時40分すぎ、黒のスーツに青のネクタイを締めた寺田氏が外出。報道陣に「岸田総理と話されましたか」と問われると、「まだです」と答え、車に乗り込んだ。その後、広島空港(同県三原市)から東京へ向かった。
ある県議によると、寺田氏は19日夜、呉市内のホテルで開かれた会合に参加。寺田氏は元気がない様子だったという。
広島生まれの寺田氏は東京大を卒業し、旧大蔵省に入省。予算編成を担当する主計官などを務めた元エリート官僚だ。妻は池田勇人元首相の孫娘。2004年、池田行彦元外相の急逝を機に地盤を継いで初当選し、当選6回を重ねた。岸田首相と同じ宏池会に属し、側近として政権を支えてきた。
地元では動揺が広がっている。呉市の呉中通商店街で刃物店に勤務する石原百合子さん(75)は「間違いであってほしい」と驚きを隠せない様子。寺田氏が事務用はさみを買いに来たこともあり、「頭が低く、優しい人だった。呉市を盛り上げて活性化してくれている。やめないでほしい」と訴えた。
一方、商店街でたばこ店を営む山野孝夫さん(80)は「がっかりした。昔は商店街のイベントにも顔を出してくれて選挙でも投票してきたが、疑惑に対する説明が不十分だ」と怒りをあらわにした。
来春の統一地方選への影響を懸念する声も出ている。広島では19年参院選を巡る大規模買収事件で、河井元法相と妻の案里元参院議員の有罪が確定。現金を受領した県議ら34人も起訴され、一部の公判は今も続いている。
呉市議会の北川一清議長は「寺田氏はクリーンなイメージがあっただけに残念だ。政治とカネの問題が相次ぐのは『またか』という思いだ」と話した。別の市議は「河井夫妻の事件があり、地元でもお金に関することは気を付けていたのに。辞任して終わりではなく、本人の口から説明を聞きたい」と求めた。
首相が寺田総務相を更迭、民主党政権で外相務めた松本剛明氏が後任、1か月で閣僚3人辞任…読売新聞
首相が寺田総務相を更迭、民主党政権で外相務めた松本剛明氏が後任…1か月で閣僚3人辞任(読売新聞 2022/11/21 07:03)
岸田首相は20日、政治資金収支報告書の不適切な記載などが次々と発覚した寺田稔総務相(64)に辞表を提出させ、更迭した。後任には松本剛明・元外相(63)を充てる方針だ。岸田内閣では、臨時国会中の約1か月間で閣僚3人が辞任しており、政権運営に大きな打撃となった。
首相は首相公邸で寺田氏から辞表を受け取った後、「国会中、相次いで閣僚が辞任することとなり、深くおわびする。私自身、任命責任を重く受け止めている」と記者団に述べ、陳謝した。寺田氏は自らの疑惑に関し、「議員活動は続ける中で確認できたことは発表する」と記者団に語った。
松本氏は衆院兵庫11区選出で当選8回。民主党政権で外相を務め、2017年に自民党に入党し、麻生派に所属している。首相は21日午前に松本氏の人事を決める方針だが、国会会期末を12月10日に控え、今年度第2次補正予算案などの審議日程に影響が出るのは必至だ。
寺田氏は10月以降、自身が代表を務める自民党支部が妻に賃料を支払っている問題を手始めに、政治資金規正法や公職選挙法に違反する疑惑が報じられた。自身の後援会の政治資金収支報告書では、約3年にわたって故人が会計責任者となり、報告書に添付した領収書11枚で宛名の筆跡が酷似し、偽造した疑いが浮上した。16日には、昨年の衆院選で地方議員らに違法に報酬を支払ったとの疑惑も指摘された。
寺田氏は「何ら問題ない」などと強調したが、野党は政治資金規正法などを所管する閣僚として不適任だとして、辞任を求めていた。
政府・自民内では、国会審議への影響を懸念し、辞任論が拡大した。首相は19日の記者会見で、「適切なタイミングで首相として判断したい」などと述べ、更迭を示唆した。
岸田内閣の閣僚の辞任は、山際大志郎・前経済再生相、葉梨康弘・前法相に続き3人目となる。山際氏は「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)との関係が相次いで判明し、10月24日に辞任した。葉梨氏は、死刑執行に関する職務を軽視するような発言をした責任をとり、今月11日に辞任した。
寺田氏は首相と同じ広島県選出で岸田派に所属する。元財務官僚で、義理の祖父の池田勇人・元首相や義理の叔父の池田行彦・元外相の地盤を引き継ぎ、2004年に初当選した。首相補佐官を務めた後、今年8月の内閣改造で初入閣した。
岸田内閣の惨状は第1次安倍政権の崩れ方そっくりになってきた
岸田内閣の惨状は第1次安倍政権の崩れ方そっくりになってきた(日刊ゲンダイ 公開日:2022/11/17 06:00 更新日:2022/11/17 06:00)
高野孟 ジャーナリスト (日刊ゲンダイ 2022.11.17)
山際大志郎経済再生相は統一教会系団体との底なしズブズブ関係で、葉梨康弘法相は死刑制度を侮辱するかの失言で、いずれも岸田文雄首相の「遅すぎた決断」により辞任させられ、さて次は「政治とカネ」で寺田稔総務相と秋葉賢也復興相のどちらが先になるのかと取り沙汰されている有様で、岸田内閣はすでに半壊状態である。
久しぶりに対話した自民党古参議員が言う。「決断というのは、遅すぎると決断にならない。野球のピッチャー交代だってそうだろう、タイミングよくスパッとやれれば事態の改善のきっかけになるが、遅すぎれば傷口を広げるばかりになる」と。
思い出すのは第1次安倍政権の崩れ方だと彼は言う。06年9月に内閣が発足して、早くも3カ月後に佐田玄一郎行革相が政治資金問題で辞任。続いて松岡利勝農相が農林団体との癒着問題で自殺し、さらに久間章生防衛相が「原爆を投下されたのはしょうがなかった」の失言で辞任。それで7月参院選では自民党が大敗し、「これでさすがに禊ぎも済んだろう」と言われたが、何と松岡の後任の農相となった赤城徳彦も、そのまた後任の遠藤武彦も、呪われたように次々にカネの問題で辞任し、1年で内閣退陣となったのである。
「あの時とそっくりで、ドミノ倒しを止めたいので『何とかならないのか!』と半狂乱になって怒鳴りまくっているうちに、どんどん決断が遅れるという最悪パターンに、すでに入りかかっている」というのが古参議員の肌感覚である。
この有様で先行きはどうなるのか。「岸田としては、自分では“得意”だと思っている外交で点数を上げ、支持率回復と考えたのかもしれないが、プノンペンでの演説を聞いても、外務省の役人が書いたペーパーを棒読みしているだけで、心ここにあらずの風情だろう。当然、世界を感心させたり、国内で賞賛を得たりするものは何もなく、不発」。そうなると一部の週刊誌が言うように、「12月に敗れかぶれ解散・総選挙」という衝動も強まるのではないだろうか?
「いやあ、それをやれば大惨敗。第1次安倍内閣の時の参院選と同じで、内閣崩壊を早めるだけだろう」と、古参議員もすでに匙を投げた形。さあて、岸田に局面打開の妙手は残されているのだろうか。
高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。