今の日本株はやはりバブル…?目前に迫る「世界同時株安」に備えよ 世界的インフレの沈静化はいつ?(マネー現代 2023.06.05)
真壁昭夫 多摩大学特別招聘教授
マイナス金利は当面続く
4月27〜28日、日銀は金融政策決定会合を開いた。参加者の“主な意見”によると、多くが追加的な金融政策の修正に慎重だった。
「忍耐強く金融の緩和を続け、超緩和的な金融環境を維持することが国内の需要回復に有効」との見解は多かった。
その結果、取り敢えず現在の異次元緩和策が継続される公算は高まった。
足許、7月にイールドカーブ・コントロール政策(YCC)の修正を予想する、金融専門家の見方が増えているようだ。
ただ、変動型住宅ローン金利の上昇を避けることもあり、マイナス金利政策は当面続けられるとみられる。
短期的に、長期金利の上限が引き上げられることはあっても、わが国の超緩和的な金融政策は続きそうだ。
一方、米国のインフレは目標値である2%を上回っている。これからも、連邦準備制度理事会(FRB)は金融引き締めを継続する可能性が高い。
株高は長く続かない
そのため、日米の金利差は拡大するだろう。金利差拡大の思惑から、5月、金融市場で円安は勢いづき、日本株も上昇した。
ただ、中期的に米国の中堅銀行の経営不安は高まる恐れがある。足許の円安・株高の傾向が長期間続くとは考えづらい。
昨年12月、日銀は金融政策を部分的に修正した。長期金利の上限は0.50%程度に引き上げられた。それは、国債買入による金融市場の機能低下と、物価の抑制を狙ったものだった。
特に、国債の流通市場の流動性低下は深刻だ。取引が難しい状況が続けば、国債の新規発行にも負の影響が出る恐れは高まる。
わが国の物価は高止まりしている。4月の消費者物価指数は前年同月比3.5%、前月から上昇率は高まった。
生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価は同4.1%上昇した。
理論的に、金融政策の追加の修正を行う必要性は高まっている。しかし、4月の決定会合では追加的な金融政策の修正は見送られた。
米国経済の先行き不安
決定会合の主な意見では、緩和継続を重視するものが多かった。
YCCの加修正が行われるタイミングは、今のところ後ずれしている。5月末、経済の専門家への調査の一つでは「6月よりも7月に日銀がYCCを修正する」と予想する割合は高かった。
一方、米国やユーロ圏では物価の上昇ペースは鈍化しているが、2%を上回っている。短期間で日米、日ユーロ圏の金利差が縮小に転じると想定しづらい。
そうした見方から、5月中旬から下旬にかけて、海外勢を中心に主要投資家は円キャリートレードを仕掛けた。
円安は、国内企業の業績をかさ上げする。台湾問題など地政学リスクの高まり、予想を下回る景気回復ペースなどから中国株を売り、日本株を短期目線で買い上げる投資家も増えた。
5月29日の午前中、日経平均株価は、前営業日の終値から一時、600円以上も上昇する場面があった。米国の債務上限問題がひとまず合意に達したと報じられたことが投資家の楽観を高めた。
ただ、株価上昇は行き過ぎだ。主要企業の2022年度決算は好調とは言えない。
円安は収益を押し上げた。一方、世界的なインフレや人手不足などによってコスト吸収に苦戦する企業は多い。
中期的に、米国経済の先行き不透明感は高まるだろう。
日本株の売りが加速する
現在、米国の労働市場は過熱感を保っている。5月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、“インフレは許容できない高さにある”ことで参加者の見解は一致した。
FRBは金融引き締めを続け、景気を後退させてインフレを鎮静化させなければならない。
それに伴い、世界の株式市場の下落リスクは上昇する。一時的に、米国の利上げが休止されたとしても、年内の利下げは予想できない。
米国の金利は高止まりするだろう。今後の金融政策の展開次第では、金利が上昇するリスクもある。
米国の中堅銀行セクターでは、株価下落によって経営不安が高まり、預金流出が加速する恐れも増す。
それが現実のものとなれば、世界の金融市場でリスクオフ(回避)が加速する。円キャリートレードの巻き戻しから円はドルなどに対して上昇するだろう。
5月の株価上昇によって割安感が薄れた日本株を売却する海外投資家も増える可能性は高い。
このように考えると、足許の円安、日本株上昇の傾向が長続きするとは考えづらい。
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真壁昭夫 多摩大学特別招聘教授
1953年 神奈川県生まれ。76年一橋大学商学部卒業後、 第一勧業銀行に入行。ロンドン大学経営学部大学院、メリル・リンチ社への出向を経て、みずほ総研主席研究員。現在、多摩大学特別招聘教授。行動経済学会常任理事。FP協会評議委員。著書に『日本がギリシャになる日』、『行動経済学入門』など