放送法の解釈問題 政治介入防ぐ方策議論を(毎日新聞 2023/4/19)
時の政治権力によって放送の自律が損なわれることがあってはならない。放送法を巡る総務省の行政文書で浮き彫りになった根本的な問題だ。
放送法4条が定める「政治的公平」は従来、「事業者の番組全体を見て判断する」と解釈されてきた。文書では、第2次安倍晋三政権当時の礒崎陽輔首相補佐官が、総務省に解釈の変更を迫った経緯が明らかになった。
その後、当時の高市早苗総務相が「一つの番組のみ」でも判断し得ると国会で答弁し、政府はこれに沿った見解を出した。
総務省は解釈変更ではなく、「補充的説明」だったと強調する。だが実際、政府・与党のテレビ番組への干渉が目についた。個々の番組への政治介入は、検閲につながりかねない。
にもかかわらず、国会での議論は踏み込み不足の感が否めない。新しい解釈の撤回を求める野党に対し、政府は応じる姿勢を示していない。
そもそも「政治的公平」を政府が判断する現在の仕組みが適切なのかが焦点だ。解釈を元に戻すだけでは十分ではない。
放送法は戦前・戦中に言論が抑圧された反省を踏まえて制定された。事業者の自律を保障し、「表現の自由を確保する」のが主な目的だ。番組編集の自由も掲げる。
4条の「政治的公平」は「倫理規範」であり、その確保は事業者の自律に委ねられているとの考え方が一般的だ。
もし政府が番組内容を判断できるということであれば、憲法21条が保障する「表現の自由」を制限することになりかねない。
本来、自主的な規制機関である放送倫理・番組向上機構(BPO)や、各局の番組審議機関に判断が委ねられるべきだ。
放送局の姿勢も問われている。NHK予算は国会承認が必要で、民放は総務相から放送免許を受ける。制度上、政治が圧力をかけやすい構造になっているからこそ、言論機関として自律を守る覚悟が求められる。
国会で議論すべきなのは、放送への政治介入を防ぐ方策だ。ほかの先進国のように、行政府から独立した規制機関の設置も検討すべきだろう。