日銀が恐れる株価暴落とさらなる円安 金融引き締めに動けない理由(日刊ゲンダイ 公開日:2022/06/24 06:00 更新日:2022/06/24 06:00)
日本銀行の黒田東彦総裁は17日、現時点での金融引き締めや利上げは景気の下押し圧力になり「適切でない」との見解を示した。欧米の中央銀行がエネルギー価格の急騰などから相次いで利上げをする中、異次元緩和政策を続ける。
2013年4月4日に決定された異次元金融緩和「量的・質的金融緩和」は、市中への資金供給量を増やし、期待インフレ率を上昇させるというサプライサイドポリシーであるが、過去10年、まったく機能していない。
13年から22年まで何度も景気は良くなったが、異次元金融緩和は変わらなかった。資本主義である以上、市場経済であり、物価は変動する。資本主義には「景気循環」があり、景気は、上昇、好況、後退、不況というサイクルを繰り返す。それは、日経平均株価のチャートが波打つのにも端的に表れている。
コロナ禍の不況も俯瞰すれば、景気循環のサイクルに包含される。好況の時に金融引き締めがなければ、永遠に金融緩和であり、それはモルヒネのように経済を弱体化させる。
日銀は、異次元金融緩和から、金融引き締めに転じる政策転換による株価の暴落を恐れていよう。なぜなら、日銀は時価にもよるが推定60兆円と大量の株式ETFを保有し、日本最大の株式保有家であり、株価暴落となればバランスシートが悪化し、「通貨の番人」たる日銀の信用力も低下。そしてそれは「円」に対する信用の毀損となり、さらなる円安に落ち込むからだ。
中央銀行の禁じ手、株式保有の弊害である。さらに7月10日の参議院選挙の投開票日前に株式市場が混乱すれば、政府与党への打撃になる。
政府が発表した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の中にある「資産所得倍増プラン」が問題。骨太方針では、新しい資本主義を実現するための重点投資分野が掲げられているが、資産所得倍増プランは家計金融資産2000兆円を貯蓄から投資に回す「個人金融資産を全世代的に貯蓄から投資にシフトさせる」とあるからだ。この岸田政権のスローガンを根底からひっくり返す事態を招いてしまう。
ましてや、1989年のバブル崩壊ではないが、金融引き締めへの転換はダイナマイト。一度株価が下落し始めたら、海外投資家の売り浴びせで、数カ月間、株価が下落し続ける公算、株価の「慣性の法則」もある。となれば9月中間期に年金基金や銀行の決算などに大きなリスクとなる。
黒田総裁は23年4月に任期満了となる。欧米中央銀行と歩調の合わない異次元金融緩和、それによりもたらされる「円安」、この「袋小路」から抜けだす方策は見えない。慎重に行動したい。相場なら「様子見」である。
中西文行 「ロータス投資研究所」代表
法政大学卒業後、岡三証券入社。システム開発部などを経て、岡三経済研究所チャーチスト、企業アナリスト業務に従事。岡三インターナショナル出向。東京大学先端技術研究所社会人聴講生、インド政府ITプロジェクト委員。SMBCフレンド証券投資情報部長を経て13年に独立。現在は「ロータス投資研究所」代表。