「戦争放棄」なし、具体的な「人権」なし…参政党「憲法構想案」に見える国家観 児玉晃一弁護士と読み解く(東京新聞 2025年7月19日 14時00分)
20日投開票の参院選で勢力を大きく伸ばすとみられている参政党の「憲法構想案」が物議を醸している。国民の権利についての規定が現行憲法に比べて極端に少なく、「戦争放棄」の定めもない。どう読み解けばいいのか。憲法や人権問題に詳しい児玉晃一弁護士に分析してもらった。(池尾伸一)
参政党の憲法構想案 2025年5月に「党員の皆さまと共に2年がかりで取り組んで生きた『創憲』プロジェクトの成果として完成させた」として発表された。一方で、神谷宗幣代表は「憲法を議論するためのたたき台だ」とも説明している。
「国民の権利」条文は現行憲法の3分の1のみ
参政党の憲法構想案をどう見る。
「一読して驚いたのは、条文の少なさだ。現行憲法は(補則を除き)99条からなるが、参政党案には3分の1の33条しかない。守られるべき国民の権利についての条文がごっそり抜け落ちている。本来、憲法は国家権力による人権侵害から人々を守るためのものだ。戦前の大日本帝国憲法ですら76条あり、不十分ながら人権についてもさまざまに定められていた」
どんな規定がないのか。
「まず、人間が人間らしく生きることを守る『基本的人権の保障』がない。『国民は個人として尊重される』という13条に相当する条文もない。個人のプライバシーについての権利はこの条文を根拠に保障されており、これがなくなれば、例えば国が一般の人たちがスマホでやりとりした中身を見られるようになる」
「現行憲法は14条で『法の下の平等』を定めて差別を禁止するが、これに相当する条文もない。性別、人種、信条や出身地などで国民を差別する法律ができたとしても、憲法違反とする根拠がなくなってしまう」
神道以外を禁じ、クリスマスを認めないことも可能に
現行憲法の28条には労働者の権利も明記されている。
「『労働三権』と呼ばれる労働者の団結権、交渉権、団体行動権も書かれていない。労働者の権利が保障されていなければ、一方的に賃金を下げられても、団結して交渉することができない。結果的に労働条件が悪化する可能性がある」
「『思想・良心の自由』『信教の自由』などを守る条文もない。一方で、参政党案の前文では『八百万(やおよろず)の神と祖先を祭る』とあり、条文でも『神話』教育を必修と定めて、国家として神道を尊重することを目指している。神道以外の宗教を禁じ、クリスマスなど異教の行事を認めないこともできてしまう」
「さらに『表現の自由』や『集会の自由』を保障する条文がなく、国家による検閲を禁ずる条文もない。SNSや集会で自由に意見表明することが難しくなるかもしれない。裁判を受ける権利なども明記されていない」
参政党は解説動画で、「国民は主体的に生きる自由を有する」との条文などで包括的にさまざまな権利を認めていると説明している。
「守るべき権利を個別具体的に定めているからこそ、国家権力から人々を守れる。参政党案では、権利が侵害された人が裁判を起こしても、憲法に根拠となる条文が見当たらないとして負けてしまう」
米軍は引き揚げ、国防には自国軍だけで当たることに
現行憲法の柱の一つ「戦争放棄」も見当たらない。
「参政党案では現行憲法9条に相当する部分は撤廃されており、戦争ができるようになる。その一方で『自衛のための軍隊を保持する』とある。自衛目的とされているが、他国への攻撃もできる内容で、今の自衛隊とは全く性質が異なる。戦争ができる文字どおりの軍隊だ。『外国の軍隊は国内常駐させてはならない』とあるので、米軍は引き揚げ、国防には自国軍だけで当たることになる」
参政党案では、国防のための人員はどうなるのか。
「『国民は子孫のために日本を守る義務を負う』とあり、注釈で『国まもりの参加協力の努力義務』とある。一般の国民を国防に参加させる徴兵制的なことを想定していると読める。『職業選択の自由』も明記されていない」
参政党の憲法構想案の中身を詳しく知らない人も多そうだ。
「憲法とは、目指す基本的な国家の形を示すものだ。参政党は、演説では賃金アップなどを強調しているが、こうした国家を目指していることを知った上で有権者は投票すべきだろう」

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児玉晃一(こだま・こういち) 1966年生まれ。1989年、早稲田大学法学部卒。1994年に弁護士登録し、2009年マイルストーン総合法律事務所(東京都渋谷区)を開設。刑事裁判の弁護のほか、難民・入管問題に取り組む。著書に『2023年改定入管法解説』など。全国難民弁護団連絡会議世話人などを務める。