米価の高止まり 安定供給へ政府は手尽くせ(中國新聞 2025年5月15日(木))
最寄りのスーパーのコメ売り場をのぞくと、多くは5キロ4千~5千円台で高止まったままだった。
政府がコメの価格高騰に対応するため備蓄米の放出を始めて2カ月が過ぎた。スーパーでの平均価格は直近で4214円と18週ぶりに下落したが、前週比で19円安と、まだ期待する効果は表れていない。
前年同期と比べれば、なお約2倍の高値だ。国民は物価高に苦しむ中でコメの高騰に見舞われ、生活を切り詰める状況が続いている。政府は備蓄米が全国に行き渡るよう放出のやり方を改めるとともに、コメの安定供給と中長期的な増産に向け、あらゆる手を尽くさなければならない。

昨夏から続く「令和の米騒動」で露呈したのは、農林水産省が生産量も流通実態も把握できていないことだ。
当初「コメは不足していない」との見解を維持し、備蓄米放出を拒否し続けた。米価高止まりに対する世論の反発で政策転換に追い込まれ、今年3月になってようやく放出した。品薄が顕著になった段階で放出していれば、ここまでの混乱に至らなかったはずで失政のそしりは免れない。
農水省は、値上がりを期待する一部の卸売業者や農家の抱え込みも指摘していた。3月末に公表したコメの在庫調査で、その主張が見当違いであることが明らかになった。
生産者、集荷、卸売り、消費者と流通の各段階で、それぞれが例年以上に在庫をため込んでいた。米騒動で増幅した「品切れ不安」が影響したようだ。その不安解消が米価を落ち着かせる鍵になる。
ところが備蓄米の9割超を落札した全国農業協同組合連合会(JA全農)からの出荷が滞っている。卸売業者に渡されたのは32%にとどまる。
事務手続きの煩雑さやトラックの輸送手配の遅れのほか、卸売業者の段階でも通常のコメとは別に行う精米や袋詰めに時間がかかるという。
売り渡しがJA全農にほぼ限定されている点も問題だ。年間5千トン以上の仕入れ実績があり、原則1年後に政府が同量を買い戻すことを入札の参加条件にしたためだ。
より早く全国の店頭に並べるには幅広い業者に入札参加を促した方がいい。だが来年もコメ不足解消が見通せない中、政府に戻すコメを業者が用意するのは困難なはずだ。買い戻し条件を撤廃するべきである。放出は7月まで続く。放出の行き過ぎで暴落を招かないよう、市場のチェックを欠いてはならない。
昨年成立した改正食料・農業・農村基本法は食料安全保障を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、国民一人一人がこれを入手できる状態」と定義する。
ならば、この間の農水省の状況把握と判断の検証を求めたい。そもそも転作などへの補助金付きの生産調整で、国内需要ぎりぎりのコメ生産を誘導した農政に問題がある。生産者の高齢化が著しく、増産転換は容易ではない。
農水省は水田政策を2027年度から根本的に見直す方針だ。得られた教訓と現場の声を反映させねばならない。