昔の自分から鉄砲を撃たれる石破首相 党内にも政府にも実権なし、カラーもなし 高橋洋一(週刊フジ 2024/10/13 12:00)
石破茂首相の衆院解散の時期や経済政策などをめぐる発言は、自民党総裁選前とその後で豹変(ひょうへん)している。石破政権は党内基盤の弱さも指摘されるなかで、本当の「実力者」は誰なのか。
今回の自民党総裁選を政治的にみれば、菅義偉元首相と麻生太郎前副総裁の「キングメーカー争い」と言われていた。
ところが、1回目の投票で菅氏の推す小泉進次郎選対委員長が急速に失速すると、決選投票は石破氏と高市早苗前経済安保相の争いとなった。菅氏は石破氏を、麻生氏は高市氏をそれぞれ支援したが、森山裕幹事長と岸田文雄前首相らが石破氏を推したので、石破総裁が誕生した。
この段階で、菅氏の影響力はやや低下し、森山氏と岸田氏の影響力が強くなった。その結果、党の実権は森山氏が、政府の実権は岸田政権から留任した林芳正官房長官が握ることとなった。
もともと石破首相が「党内野党」だったこともあり、党内基盤は極めて弱い。今の権力構造も、総裁選の過程でたまたま生じたものであるといえ、複雑で脆(もろ)いものだ。
党内で要となる幹事長の森山氏についても、二階俊博元幹事長と似たような政治手法であるが、そもそも党内基盤は強くない。政府内を取り仕切る官房長官の林氏は、旧岸田派で、自らも総裁に意欲があるが、岸田前首相も返り咲きを諦めたわけではなく、何があっても石破氏を支えるといった気構えは見受けられない。
そもそも総裁選で多くの票を集めた保守系の高市氏と小林鷹之元経済安保相は、いずれも党要職や閣僚にも就かず石破政権とは一線を画している。高市氏を推した麻生氏も、最高顧問に祭り上げられたので石破政権とは完全に距離を置いている。
先日の最低賃金に関する本コラムで書いたが、石破首相が本来掲げてきた政策は、野田佳彦代表が率いる立憲民主党より「左」で、れいわ新選組と同じくらいの左派だ。森山氏も林氏も実際には同調できない部分が多いのではないだろうか。
現に、政府の方針である所信表明演説では「石破カラー」は大半が払拭されてしまった。所信表明に書けないような政策が今後、復活する可能性はまずないので、政策面で石破首相に期待していた人は失望するのではないか。
「政治とカネ」をめぐる問題で石破首相は、非公認の拡大や比例の重複不可を打ち出した。世論に迎合した策は「二重処分」との指摘もあり、党内からの批判が強い。
「高市氏だけは総裁にしたくない」という思惑だけで誕生した石破政権は、党内にも政府にも実権を持っていないので、今後も苦しい運営を余儀なくされるだろう。
こうなると、何のための石破首相なのかという話になる。「自民党を変える」と意気込む石破首相だが、その前に自分が変わってしまった。かつて石破首相は「後ろから鉄砲を撃つ」と党内で言われたが、今の石破首相は過去の石破氏から鉄砲を撃たれ、ブーメランが刺さっている状況だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)