福島原発の大事故から10年 反省のない東京電力、規制庁は大丈夫か

東京電力柏崎刈羽原子力発電所 政治・経済

テロを意図した不審者でも中央制御室に入室が可能

新潟県にある東京電力柏崎刈羽原発で昨年9月20日、東電社員が他人のIDカードで中央制御室に入っていた。原子炉やタービンなどを制御する「原発の中枢部」であり、テロなどを防ぐため複数の関門を設けて入退室を厳重に規制している。

関門で認証エラーが出たうえ、不審に思った警備担当者もいたのに、不正を防げなかった。チェック体制の甘さ、ずさんな危機管理体制が明らかになった。

原子力規制庁は情報を4か月間も放置

もう一つ見すごせないのは、規制委の事務局を担う原子力規制庁の対応である。

不正入室の翌日、東電から報告を受けた規制庁は軽微な事案だと判断し、更田豊志委員長ら規制委のメンバーには四半期ごとの定期報告の際に伝えることにした。委員長らは、今年1月まで4か月近く問題を知らなかったという。

不正入室があったころ、柏崎刈羽原発の再稼働について規制委による審査が大詰めを迎えていた。東電の報告から2日後の定例会で、委員長らは不正入室の事実を知らないまま、東電の安全姿勢を了承し、原発運転の適格性があると判断した。

柏崎刈羽原発をめぐる問題の経緯

出来事を時系列に整理した。

【2020年】  
9月20日 東電社員が他人のIDカードで不正に中央制御室に入る
21日 不正入室が発覚、東電が規制庁に報告
23日 規制委が東電の「適格性」を認め、保安規定の基本姿勢を了承
10月8-9日
13-16日
検査
14日 規制委が安全対策に関する設備の詳細設計を認可
30日 規制委が保安規定を認可、国の審査が終了
11月6日 東電が使用前確認申請書を規制委に提出
11日 第2四半期報告、事案の検査・検討中のため報告せず
11月15日 柏崎市長選挙投開票、再稼働容認の桜井雅浩現市長が再稼働反対の近藤正道氏を破り再選
【2021年】  
1月13日 安全対策工事が12日に完了と東電が発表
19日 規制庁が不正入室問題を規制委員長に報告
23日 読売新聞で不正入室問題が明らかに
26日 令和2年度第51回原子力規制委員会臨時会合、柏崎刈羽原子力発電所におけるIDカード不正使用事案の概要を報告
27日 6・7号機共用の中央制御室の空調施設で工事の一部未完了が判明
2月3日 重要度評価・規制対応措置会合(SERP予備会合)で暫定評価結果「白」
8日 指摘事項の重要度の暫定評価「白」を了承し、東電に通知
9日 東電から意見陳述無しの回答を受け、重要度の評価「白」が確定
10日 第3四半期報告でID不正入室事案を報告
15日 7号機原子炉建屋の火災感知器設置工事の未完了を東電が発表
26日 7号機原子炉建屋の配管周辺の止水工事の未完了を東電が発表
26日 東電が使用前確認申請書の変更を規制委に申請

他人のIDで中央制御室に入室できた、危機管理のずさんさ

不祥事が発生した昨年9月20日から21日までの詳細は以下のとおりである。

9月20日、中央制御室に勤務する社員Aは、自分のIDカードが見つからなかったため、非番の社員Bのロッカーを開け、無断でカードを持ち出した。

紛失の報告やIDの無効化など必要な手順は踏まなかった。社員Bも中央制御室の勤務員だったが、ロッカーに鍵をかけてはいなかった。

その後、社員Aは中央制御室に通じる、二つの「関門」でそれぞれ警備担当者に対し、社員Bの名前を名乗った。いずれも警備担当者が社員Aの顔とIDカードの顔写真との違いに疑念を抱いたが、通過させた。

二つ目の「関門」となる防護区域出入り口。IDカードの認証が複数回エラーになったが、警備担当の社員Cが出入り口を開けた。

この社員Cは権限がないのに独断で社員Aが出入り口を通れるようカードの識別情報の登録も変更した。その後、社員Aの顔に見覚えがある警備員が違和感から声を掛けたが、Aは社員Bの名前で押し通し、中央制御室までたどり着いた。

この日の勤務を終えた社員A。自分のロッカーの奥に自身のIDカードが落ちているのを見つけた。無断で借りたIDカードは社員Bのロッカーに戻した。

翌21日、社員Bが自分のIDカードで防護区域に入ろうとした際、識別情報の登録が変更されていたためエラーが発生。前日も対応した社員Cが不審に思い、事情を聞いたことから問題が発覚した。

東電は同日、原子力規制庁に報告した。しかし、規制庁は委員会にすぐに報告せず、更田委員長に報告したのは翌年1月19日である。

規制庁は何故、すぐに委員長に報告しなかったのか。

一つの要因として、間近に迫った11月15日の柏崎市長選挙。東京電力の不祥事が表沙汰になれば、再稼働容認の桜井雅浩候補(現市長)に不利となると考えたからではないか。

また、総務省が東北新社やNTTと会食し、便宜を与えたのではないかという疑惑が持ち上がっている。農林水産省では現職の大臣が絡む業者と官僚の密着ぶりが明らかにたっている。

原子力規制庁が電力会社と会食をし、何らかの接待を受けたことはないか。清廉潔白であることを願う。