菅首相「別人格」発言が示す権力者の“無自覚” 専門家「まともな説明をしない責任内閣制に 変質」(小田健司 AERA dot. 2021.3.3 08:02)より
1958年、鳥取県出身の官僚だった石破二朗(石破茂・自民党元幹事長の父)は、同県知事に就任するにあたって、自身の地元の町長や町議会議長を呼んでこんな話をしたという。
「わしが知事になったからには、我が町の陳情ごとは後回しだ。悪く思わないでほしい」
同じように、県庁に勤めていた複数の親戚を呼んでこうも告げていた。
「わしが知事になったからには、あなたたちの出世はないものと思え」
手にした権力が不適切に利用されることはもちろん、その疑いさえ持たれることを避けたいという考えが二朗氏にはあったはずだ。・・・
翻って、菅義偉首相の長男が勤める放送関連会社「東北新社」が繰り返し総務官僚を接待していた問題はどう考えればよいだろうか。首相は、こうした逸話をどう受け止めるだろうか。・・・
「総理大臣が家族の問題で疑惑を指摘されて、それが進退に及ぶかもしれないという形にまで発展したのは、私が調べた田中元首相以降では、最近の安倍(晋三)前首相と菅首相の2人だけではないでしょうか」(塩田潮氏、評論家)
ここで言及された安倍前首相の「家族の問題」というのはもちろん、妻の昭恵氏が関与したとされる森友学園問題だ。
財務省近畿財務局は2016年、小学校の開校を計画する森友学園に、鑑定価格から地中ごみの撤去費用8億1900万円などを値引きして国有地を売却した。昭恵氏が小学校の名誉校長に一時就いていたことから、官僚側による忖度が指摘されている。この問題では、財務省は昭恵氏らの名前を削除するなどの文書の改ざんを認めている。指示されて改ざんを行った職員は、自殺した。・・・
「行政府と立法府を分けて、立法府の最大グループが行政府を兼務し、立法府に対して責任を負うのが責任内閣制です。ところが、安倍政権以降、まともな説明をしない責任内閣制に変質しました。
こうして権力を抑制するための責任内閣制の『責任』の部分が機能しなくなった一方で、忖度の政治を作り上げることには成功しました。立法府で与党が圧倒的に多くの議席を占めていると、行政府も含めて権力は暴走するということです。」(越智敏夫・新潟国際情報大学教授、政治学)
その結果、象徴的に起きた現象が、今回の菅親子の問題や、安倍政権時代の数々の疑惑なのだろう。