核拡散防止条約(NPT)再検討会議 岸田首相の“どっちつかず”の演説、被爆者らから失望の声

国連本部で開かれた核拡散防止条約再検討会議で、演説する岸田文雄首相、8月1日、ニューヨーク 国際

NPT首相演説「一番大切なことがなかった」 サーロー節子さん

NPT首相演説「一番大切なことがなかった」 サーロー節子さん(毎日新聞 2022/8/2 14:48 最終更新 8/2 17:06

「一番大切なことが含まれていなかった」。カナダ在住で広島で被爆したサーロー節子さん(90)は1日、米ニューヨークの国連本部で開幕した核拡散防止条約(NPT)再検討会議の一般討論で、岸田文雄首相の演説を傍聴した。日本政府に核兵器禁止条約の批准を求めてきたが、岸田氏は演説で条約には一言も触れず、失望の思いを語った。

核兵器が人間の命や環境をどれだけ痛めつけるものなのか。「70年以上前から私たち被爆者は訴えてきた。けれど、どれだけ訴えても核保有国は私たちの声に耳を傾けることはなかった」。だから、核兵器を全面禁止する核禁条約ができた時はついに「革命」が起きたと思った。「(広島を選挙区とする岸田氏は)人類が核兵器を再び使わないことを確実にする唯一の方法は、核兵器を放棄して廃絶することだと知っているはずだ」と批准を呼びかけてきた。

岸田氏は演説で、海外の若者を日本に招いて被爆の実相に触れてもらうための基金創設などを表明したが、核禁条約には言及しなかった。サーローさんは、日本の首相として初めて出席したことを評価しつつ「抑止論に基づく核政策を続ける限り、核兵器を手放すことはできない。その大切な問題には触れなかった。聞きやすいことばかりだった」と指摘。核禁条約はすでに発効しているが「意図的に無視された」と語った。

岸田首相 NPT再検討会議“どっちつかず”の演説に不満の声

岸田首相は「何のために出席?」NPT再検討会議“どっちつかず”の演説に不満の声(日刊ゲンダイ 公開日:2022/08/02 16:30 更新日:2022/08/02 16:30)

《何だか奥歯に物が挟まったような言い回しだな》《何のために出席したの?》

ネット上では批判の声が少なくない。1日(日本時間2日未明)、米ニューヨークの国連本部で開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議に日本の総理大臣として初めて出席した岸田文雄首相の演説だ。

岸田首相は、ウクライナに侵攻したロシアが核による威嚇を繰り返したことに触れ、「核兵器のない世界への道のりは一層厳しくなっている」と訴えた上で、「被爆地・広島出身の首相として、現実的な歩みを一歩ずつ進めていかなくてはならない。わが国はNPTの守護者としてNPTをしっかりと守り抜く」と強調。「核兵器のない世界」に向けた「ヒロシマ・アクション・プラン」を提唱したのだが、NPT加盟国にとっては、あらためて肩透かしを食らったような思いを抱いたのではないか。

核兵器禁止条約を批准せず、6月にウィーンで開かれた第1回締約国会議へのオブザーバー参加も見送った日本がどれだけ「核兵器廃絶」を声高に叫んでも、その本気度は世界に伝わらないだろう。せっかく日本の総理大臣として、NPTの再検討会議に初出席したのであれば、「核保有国と非保有国の橋渡し役」という曖昧な立場にとどまるのではなく、多くの命が失われた被爆国の決意として、何が何でも核廃絶するという姿勢がほしかった。

NHKの報道でも、現地で岸田首相の発言を聴いた広島県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦理事長が「岸田総理大臣の演説は『核兵器を国際社会が協力して現実的になくしていかなくてはいけない』と言うばかりで『日本政府が先頭に立って世界を引っ張っていく』という一番重要な言葉が出てこなかったと感じた。その意気込みがないと核兵器廃絶は難しいと思う」「岸田総理大臣はこれまで『被爆者の声を聞く』と言ってきたが、今回の演説を聴くと、本当に被爆者の声を聞いているのか疑問に思った」と語っていたが、その通りだろう。