自民党の2016年参院選公約、GDP600兆円は達成できた?「新3本の矢」どうなった?
自民党の2016年参院選公約、GDP600兆円は達成できた?「新3本の矢」どうなった?(東京新聞 2022年6月16日 06時00分)
2022年7月10日投開票の参院選で改選となるのは、6年前の2016年に当選した議員たちだ。安倍晋三首相(当時)が15年に「新・3本の矢」を公表してから初めての国政選挙で、自民党の当時の公約にも、3つの矢である「名目GDP600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」が掲げられた。
政権の中心を担ってきた自民党の公約の目標は、この6年間でどれほど達成されたのか。22年参院選に向けた最新の自民党公約が6月16日に公表されるのを前に、6年前の公約で掲げられた「新・3本の矢」をはじめとする主な数値目標6項目と、関連する統計を比較し、どう評価できるのかを調べた。
2016年参院選挙 自民党が掲げた主な数値目標
▼GDP600兆円 ▼希望出生率1.8 ▼介護離職ゼロ ▼訪日外国人旅客4000万人 ▼農林水産物輸出1兆円 ▼最低賃金1000円
名目GDP600兆円経済 → 未達成
2016年・自民党公約は…
「成長と分配の好循環」の確立により、地方を含め日本経済全体を持続的に拡大均衡させ、「名目GDP600兆円経済」を目指します。
2016年・公明党公約は… 中長期的に、実質GDP成長率2%程度、名目GDP成長率3%程度を上回る経済成長の実現を目指します。
希望出生率1.8 → 評価が困難
2016年・自民党公約は…
育児・介護休業を取得しやすく、仕事と子育て・介護を両立できる制度の導入を進めます。これにより、希望出生率1.8と介護離職ゼロを目指します。
統計の状況
希望出生率は、子どもを望む国民の希望がかなえられた状態を指す言葉で、1人の女性が生涯に生む子どもの数に相当する合計特殊出生率とは単純比較できない。内閣府子ども・子育て本部の担当者によると、5年に1度の出生動向基本調査で調べている夫婦の予定する子どもの数と実際の子どもの数の差などが達成度を測る指標になる。しかし、新型コロナ禍で2020年実施の調査が1年遅れて21年に実施され、その公表は22年夏にずれたため、16年参院選後の状況を把握できる調査結果は、まだ見られない。
2016年・公明党公約は… 国民希望出生率1.8をめざして、地域の働く力、結婚要因、夫婦の協働力や家族や地域のきずな力等の要因分析を地域ごとに行い、それぞれの地域における働き方改革や乳幼児支援の体制づくりを進める地域アプローチを進めます。
介護離職ゼロ → 未達成
2016年・自民党公約は…
育児・介護休業を取得しやすく、仕事と子育て・介護を両立できる制度の導入を進めます。これにより、希望出生率1.8と介護離職ゼロを目指します。
介護離職ゼロを目指し、介護基盤を50万人分増やします。
統計の状況
介護離職の状況の把握に厚労省の担当者らが活用している主な統計は、5年に一度の就業構造基本調査。その最新の調査結果は2017年9月までの状況なので、16年参院選後の政策の効果は評価しづらい。ただ、雇用動向調査では2020年の離職者数も出ている。いずれの調査も、離職理由は「介護・看護のため」で集計しており、内訳は分からない。
2016年・公明党公約は… 介護離職ゼロに向け、介護従事者の待遇改善や再就職支援、介護福祉士養成や学生等に対する支援などで必要な人材を確保します。
訪日外国人旅客2020年4000万人 → 未達成。コロナも影響
2016年・自民党公約は…
訪日外国人旅客2020年4000万人・旅行消費額8兆円を目指し、広域観光周遊ルートの強化、クルーズ船の対応、免税店の拡大や利便性の向上等、多様なニーズに応じた受け入れ体制の整備・強化を図ります。
2016年・公明党公約は… 2020年に4000万人、2030年に6000万人の訪日外国人旅行者達成をめざし、戦略的なビザ緩和、免税制度の拡充、航空ネットワーク拡大、宿泊施設や公衆無線LANなどの整備を進め、全国各地への誘客と消費を拡大し、質の高い観光立国を実現します。
農林水産物2020年輸出額1兆円の前倒し → 21年に1兆超え
2016年・自民党公約は…
(「農林水産業」の公約で)「輸出」を新たな稼ぎの柱とします。「2020年輸出額1兆円」目標の前倒し達成と更なる拡大に向け、総合的輸出戦略を策定し、海外の市場開拓や、検疫・規制の課題解決を進めます。
2016年・公明党公約は… 農林水産物・食品の輸出額1兆円を早期に達成するため、国別・地域別の輸出戦略のもと、ニーズにこたえる生産・輸出体制の確立、物流の高度化・効率化や輸出拠点の整備、検疫への対応やHACCP、グローバルGAP等の取組などを推進します。
最低賃金、時給1000円 → 未達成
2016年・自民党公約は…
労働生産性の向上を支援し、更なる賃上げにつなげるとともに、最低賃金について時給1,000円(全国加重平均)を目指します。
2016年・公明党公約は… 能力開発の機会が不足している非正規労働者について、能力開発の機会を充実させ、処遇改善や正社員転換を図るとともに、全国加重平均1000円をめざした最低賃金の引き上げを行うなど、所得向上に取り組みます。
GDP600兆円公約「言いっ放しは困る」 自民に見えぬ6年前の検証 野党も多い「意気込み」政策<参院選2022>
GDP600兆円公約「言いっ放しは困る」 自民に見えぬ6年前の検証 野党も多い「意気込み」政策<参院選2022>(東京新聞 2022年6月25日 06時00分)
7月10日投開票の参院選で改選となるのは、6年前の2016年に当選した議員たちだ。政権を担い続ける自民党は当時の安倍晋三首相が打ち出していた「新3本の矢」を公約に掲げていたが、「名目GDP(国内総生産)600兆円」などは未達成だ。自民が今回発表した公約に、その検証はなく、新たな目標値設定にも消極姿勢が目立つ。
新3本の矢、達成と言い難く
新3本の矢は、GDP600兆円、希望出生率1.8、介護離職ゼロの3つ。このうちGDPは21年度に542兆円、厚生労働省の雇用動向調査によると、介護・看護による離職は20年時点で7万人を超えており、介護離職ゼロも達成したとは言いがたい。
希望出生率1.8は子どもを望む国民の希望がかなった状態を指し、統計による直接的な評価は困難だった。ただ、女性が生涯で生む子どもの数に相当する合計特殊出生率は21年に1.3。6年連続で下落しており、少子化の歯止めはかかっていない。
農林水産物の輸出額1兆円は目標時期には遅れながらも達成した。しかし、「最低賃金1000円」は達成できず、新3本の矢の数値目標とともに、今回の参院選公約には載らなかった。
コロナだけで説明は「苦しい」
自民党の高市早苗政調会長は16日の記者会見で、GDPについて「6年前と今年では経済状況に大きな変化がある。新型コロナウイルスの感染拡大とともに伸びが止まっている」と説明。「アベノミクスの成果により名目GDPが19年度には557兆円に伸びた」とも強調した。
これに対してニッセイ基礎研究所の上野剛志氏は「新型コロナの影響は確かにあるだろうが、16~19年度の伸びを見てもコロナだけを理由にするのは根拠が薄く、苦しい」と指摘。「政権与党が言いっ放しでは困る。あらためて検証して、引き続き600兆円を目標にするのか、新たな目標を再設定するのか、明確にすべきだ」と提言する。
マニフェスト「看板倒れ」の反動で
公約に数値目標や期限を明記した代表例は、09年の衆院選で政権交代を実現した旧民主党の「マニフェスト(政権公約)」だ。しかし、子ども手当で月2万6000円の満額支給が実現しないなど「看板倒れ」と批判され、公約にない消費税増税は反発を招いた。
その反動で、今は与野党を通じて「強化します」「推進します」といった抽象的な公約が多い。交流サイト(SNS)では「『意気込み』くらいに考えている」との声もある。
しかし、目標値や期限がなければ、各党が目指す国家の将来像はあいまいになり、公約の達成状況の客観的な検証も難しくなる。
早稲田大マニフェスト研究所の中村健事務局長は、参院選は衆院選と違い、政権交代に直接結びつかない一方、公約の進み具合を振り返る「中間選挙」と位置付ける。その上で、自民党に「(6年前の数値目標という)検証材料があるのだから、それを提示するのは国民に対する説明責任でもある」と注文。
野党には、自民党が最低賃金の数値目標を示さない中、一部の党が「1500円」を掲げていることを例に「それがどうやったら実現可能か、与党が打ち出せないところまで戦略を出すべきだ」と求めた。