(社説)日米首脳会談 国民への説明 後回しか(朝日新聞 2023年1月15日 5時00分)
厳しさを増す安全保障環境に、日米がより緊密に連携して対処するのはもっともだ。ただ、国民的議論のないままに決まった日本の安保政策の大転換を前提に、同盟強化にひた走るなら、国の防衛に不可欠な国民の理解と支持は広がるまい。
岸田首相が米ワシントンで、バイデン大統領と会談した。首相は1カ月前に安保3文書を改定し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛予算の「相当な増額」を決めたことを伝え、大統領は全面的な支持を表明した。首相は米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入についても話したという。
首相は昨年5月に東京で開かれた首脳会談で、敵基地攻撃能力の「検討」と、予算の相当な増額への「決意」を、大統領に表明していた。いわば、その約束を果たした形だが、いずれも国内ではきちんとした説明はなく、年末ぎりぎりになって結論だけ示されたのが実情だ。
首相は会談後に米大学院で行った講演で、自身の「決断」を、吉田茂首相の日米安保条約締結、岸信介首相の安保改定、安倍晋三首相の集団的自衛権行使の一部容認に続く、「歴史上最も重要な決定の一つ」と自賛した。しかし、その重みにふさわしい議論と検討が尽くされたとは、とても言えない。
バイデン政権は昨年10月に策定した国家安全保障戦略で、同盟国にも軍事力の強化を促し、自国の抑止に組み込む「統合抑止」を打ち出した。日本の政策転換はこれに呼応するもので、米側が歓迎するのは当然だ。
ただ、両国がその行動を「最大の戦略的挑戦」と位置づける中国との関係をめぐっても、日米の利害が常に完全に一致するわけではない。米国の方針に一方的に引きずられることなく、主体的な判断を貫く覚悟が首相にあるのだろうか。
首相は講演の中で、ロシアの侵略と戦うウクライナ国民を引き合いに、「国民一人一人が主体的に国を守る意志の大切さ」を強調した。安保3文書改定後の記者会見でも同じことを述べた。国の針路にかかわる方針転換に理解と納得を得る努力を後回しにしたままで、この言葉が国民に響くとは思えない。
専守防衛を空洞化させる敵基地攻撃能力の保有が、かえって地域の不安定化や軍拡競争につながらないか。自衛隊が「盾」、米軍が「矛」という同盟の役割分担はどう変わるのか。「倍増」される防衛関連予算の財源もあやふやだ。こうした数々の疑問や懸念に、岸田政権はまだ正面から答えていない。
23日から通常国会が始まる。今度こそ首相は逃げずに、徹底した議論に臨むべきだ。